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仙台地方裁判所 昭和55年(ワ)389号 判決

原告

坂元良一

被告

株式会社宮城ヤンマー商会

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して金二二九二万一六五八円及びこれに対する昭和五三年四月五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告に対し、四三六七万三六四二円及び内金四〇四四万三六四二円に対する昭和五三年四月五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求原因

1(事故の発生)

原告(昭和三六年一二月二七日生)は次の交通事故によつて受傷した。

(一)  発生日 昭和五三年四月四日午後八時四〇分ころ

(二)  発生地 宮城県角田市佐倉字中前一番地先国道四九号線(以下「国道」という。)路上(以下「本件路上」という。)

(三)  被告車 普通乗用車(宮五六に八八三一)

運転者 被告井上一(以下「被告井上」という。)

(四)  原告車 自動二輪車(宮ま七八三四、以下「原告バイク」という。)

運転者 原告

(五)  態様

国道上に東方から直角に接続する路地(以下「路地」という。)を、被告が被告車を後退運転して国道上に進入した際、本件路上で、国道を北方から南進してきた原告バイクの前部に被告車の左後部を衝突させた。

(六)  結果

原告は、左肩胛骨上腕骨骨折、左上腕神経業損傷等の傷害を受けた。

2(責任原因)

(一)  被告井上は、本件事故当時被告株式会社宮城ヤンマー商会(以下「被告会社」という。)角田営業所(以下「角田営業所」という。)長の職にあり、会社の業務執行のため、自己所有の被告車を後退運転して本件路上に進入したのであるが、その際、左右後方に注意しつつ後退し、国道上を走行する車両等に衝突するおそれがあるときは、直ちに後退を中止して衝突事故を未然に防止するべき義務があるのにこれを怠り、左方から進行してくる原告バイクのライトを発見しながらその距離を十分確認せず、原告バイクが本件路上に到達する前にその前方を後退できるものと軽信して右方のみに気をとられて後退した結果本件事故が発生した。

(二)  従つて、被告井上は、人損について自賠法三条、物損について民法七〇九条により、被告会社は人損について、被告井上の使用者として民法七一五条又は角田営業所の営業区域かつ出勤日の限度において相対的に被告車を被告井上とともに競合的に自己のために運行の用に供しているものとして自賠法三条により、物損について民法七一五条により、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務を負う。

3(損害)

(一)  積極損害

(1)  入院治療費 四九万二〇四一円

ア 金上病院 昭和五三年四月四日から五日まで入院(二日間)

治療費 一万七八六円

イ 小川病院 同年四月五日から同年四月二六日まで及び同年五月二六日から同年一一月二日まで入院(一八三日間)

同年一一月三日から昭和五四年一二月三一日まで通院(実通院一〇七日間)

治療費 三三万五三六七円

ウ 東北大学医学部付属病院 昭和五三年四月二六日から同年五月二六日まで入院(三一日間)

治療費 一四万五八八八円

(2)  付添看護料 六万九〇〇〇円

金上病院及び小川病院に入院中の昭和五三年四月四日から同年同月二六日までの二三日間骨折及び神経麻ひで起居不自由なため母親の付添看護を受けたがこの費用は一日三〇〇〇円に相当する。

(3)  入院諸雑費 一二万七八〇〇円

入院一日について六〇〇円(二一三日間)が相当である。

(4)  オートバイ修理費 一〇万三一七〇円

(二)  逸失利益 四三一二万七九九一円

原告は、本件事故当時高校生であつたが、本件事故による傷害のため、左上肢筋委縮、左肩、肘、手指関節自動不能の後遺障害を残し(昭和五四年一二月三一日症状固定)右後遺症は自賠法施行令別表第五級六号に該当し、労働能力喪失率は七九パーセントである。従つて本件事故による逸失利益は次のとおり算定される。

(本件事故時) 一八歳

(稼働可能年数) 四九年間(六七歳まで)

(収益) 年間三〇〇万四七〇〇円

昭和五三年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計男子労働者平均賃金

(労働能力喪失率) 七九パーセント

(年五分の中間利息控除) ライプニツツ係数による。

三〇〇万四七〇〇×〇・七九×一八・一六九=四三一二万七九九一円

(三)  慰謝料 一〇八二万円

(1)  入通院 二〇二万円

(2)  後遺症 八八〇万円

(四)  損害てん補 九八〇万二六二二円

原告は、被告会社から四四万六七八九円、自賠責保険から九三五万五八三三円の支払いを受けたので、右損害分に充当した。

(五)  弁護士費用

原告の請求に対し被告側で争うので、原告は原告訴訟代理人に対し本訴の提起と遂行とを委任し、その費用として三二三万円を下らない額を支払う旨約した。

4 よつて、原告は被告らに対し、四三六七万三六四二円及び損害額の内金四〇四四万三六四二円に対する本件事故の日の翌日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  請求原因に対する答弁

1  請求原因第1項は認める。

2  同第2項中、被告井上が被告会社角田営業所長であつたこと、被告車を所有して運行の用に供していたことは認めるが、その余は否認する。

3  同第3項中(四)は認め、その余については次のとおり主張する。すなわち

(一)  治療費

小川病院の三三万五三六七円のうちには、治療費と全く関係がなく後記付添看護費用の認定と重複する付添賄料一万八五〇〇円が含まれているので、これは当然控除すべきである。

よつて、原告主張の費目としての治療費は、計四七万三五四一円である。ちなみに原告には治療期間中医師、看護婦の注意、指示に耳をかさず治療に専念しなかつた事実があり、そのため治療期間が長期化し治療費も徒らに増大した。この点につき治療費についてはあえて減額を主張しないが、入院諸雑費及び慰謝料の算定にあたつては当然しんしやくされるべきである。

(二)  付添看護料

原告が金上病院および小川病院に入院中の計二三日間(重複の一日分は差引済)母親の付添看護を要したことは認める。

しかし一日あたりの付添看護費用は二五〇〇円とすべきである。

(三)  入院諸雑費

原告が本件事故により被つた傷害の治療のため金上病院、小川病院、東北大学医学部付属病院を通じて計二一三日間(重複の三日分は差引済)の入院を要したことは認める。

しかし一日あたりの入院諸雑費額については、入院日数が長期にわたることや前記治療費の項で述べた事情を考慮して、五〇〇円に減額すべきである。

(四)  オートバイ修理費

原告が本件事故のために破損した自動二輪車を修理したのかどうか不明である。

仮に現実に修理して右金額を支出したとしても、これが本件事故発生時の車両時価額を上まわつている場合には右車両時価額を損害とするのが合理的である。

(五)  逸失利益

(1) 原告が本件事故により被つた傷害のため左上肢筋委縮、左肩、肘、手指関節自動不能等の後遺障害を残し(昭和五四年一二月三一日症状固定)、右後遺障害は「一上肢の用を全廃したもの」として自賠法施行令第二条後遺障害別等級表の第五級第六号に該当する旨認定されたことは認める。

(2) ところで原告は、本件事故のため留年を余儀なくされたものの症状固定後復学し、現在日常生活において「たまに腰が痛くなつたり疲れ易い。自転車には一応乗れるが危ないので乗らない。(左手)で傘をさして(右手)で荷物を持てない。」等の愁訴や不便を感じているようであるが、原告の場合症状固定時未だ満一八歳の高校生であつて、今後右のような後遺障害の部位、程度に応じて事務職等の当該障害による支障の少ない職業を選択するとともに、このような将来の見通しに向かつて早期から自己を訓練することにより、その障害の影響をできるだけ少なくすることが可能であろうことは経験則上明らかである。その結果職種次第では通常人と殆んど変らぬ稼働能力を発揮できることもあり得ると言つてよい。従つて、原告の右後遺障害による労働能力喪失率としては、症状固定後一〇年間は五〇パーセント、その後はその半分の二五パーセントと見れば十分である。

(3) 原告が在籍している県立柴田農林高校においては殆んど全部の学生がそのまま就職する。原告の母親の証言によると、原告も高校卒業後就職する予定であるとのことである。この事実に照らせば「学歴計」より実情に合つた「旧中、新高卒」の平均賃金を採用するのが合理的である。そうすると右平均賃金はきまつて支給する現金給与額一八万九三〇〇円年間賞与その他特別給与額六五万〇二〇〇円であるので、これを基礎に、原告の本件後遺障害による逸失利益の現価総額を新ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して算出すると次のとおり一八八四万四八七八円となる。

ア (就職時の満一九歳から満二九歳まで)

二九二万一八〇〇×〇・五×七・七二二=一一二八万一〇六九(円)但し、七・七二二は一〇年の新ライプニツツ係数

イ (満三〇歳から稼働終期の満六七歳まで)

(二九二万一八〇〇×〇・五)×(一万八〇七七-七・七二二)=七五六万三八〇九(円)

但し、一八・〇七七は四八年の新ライプニツツ係数

ア、イ 計一八八四万四八七八円

(六)  慰謝料

(1) 入・通院慰謝料

原告の治療期間が長期化したのは、医師、看護婦の注意、指示に反して治療に専念しなかつた為という事情がある。

本件事故発生時の基準に右事実をしんしやくすれば、右入・通院に対する慰謝料額としては一八〇万円を上まわることはない。

(2) 後遺症分

原告の後遺障害は、前記逸失利益の項で述べたとおり、仮に症状自体が回復しないとしても、それが日常生活及び労働に及ぼす影響は漸次減少するものと考えられる。また原告主張の請求額は本件事故発生時の第五級の後遺症保険金の一〇〇パーセントに匹敵するもので、これをそのまま認容することは事故後保険で満足した者との間に著しい不公平を来たす。

本件事故発生時の基準(最高額五九〇万円)にかんがみると、原告の右後遺障害に対する慰謝料額はその後の自賠責保険金引上げに伴う基準の改訂をしんしやくしても六〇〇万円を上まわることはない。

五  抗弁(被告ら)

1  (過失相殺)

(一)  原告は、本件事故当時原告バイクを運転して、国道の南進車線(萱場方面に至る)の路側帯より約一メートル中央線寄りの部分を進行してきた。現場の最高速度は時速四〇キロメートルに制限されており、当時周囲は既に薄暗く前方の見通しは良くなかつた。それにもかかわらず原告は無謀にも折から交通量が少なかつたことから右最高速度を大巾に超過する時速七〇ないし八〇キロメートルの猛速度で進行してきた。

そして、まず原告が衝突の危険を感じ急ブレーキの措置をとつた地点は、現場に残存していたスリツプ痕(二四・六メートル)の始点より空走距離分(経験則上大体一秒間)だけ手前の地点であつたことになるが右空走距離は時速七〇ないし八〇キロメートルで進行してきた原告バイクの場合一九・四四メートルから二二・二二メートルがあるので、衝突地点から約四五・六メートル前後手前の地点であり、また原告が路地から国道上に出ようとしている被告車を初めて認めた地点は、原告が、被告車を初めて発見して後、同車との衝突の危険を感じ急ブレーキの措置をとる間に、後退中の被告車が一時停止し(そのときの被告車の位置は別紙図面(以下「図面」という。)〈2〉地点)、その後再後退を開始して国道上に出るまでの一部始終を確認していること、被告車が図面〈2〉地点で左右の安全確認のため少なくとも三ないし四秒は一時停止していたことからみて、原告車が被告車を初めて発見してから少なくとも四ないし五秒間は漫然同一速度で進行し続けたとみられ、時速七〇ないし八〇キロメートルの原告車の場合その間の進行距離が最短七七・七六メートル、最長一一一・一メートルであることなどに照らすと、本件衝突地点を基準とすれば、右進行距離にスリツプ痕二四・六メートルを加えた一〇二・三六メートルないし一三五・七メートル(約一二〇メートル前後)手前の地点であつたことが明らかである。

(二)  右のとおり国道を進行してきた原告バイクは急ブレーキをかけた後、実に二四・六メートルのスリツプ痕を残して図面〈×〉地点で被告車の左後部角フエンダーに激突して転倒し、さらに折から対向車線を北進してきた訴外伊藤茂運転の原動機付自転車に接触して右衝突地点から二九・八メートル先に漸く完全停止し、原告はその途中にほうり出されたものである。

(三)  被告井上は、図面〈1〉地点で被告車に乗車し、後退灯を点灯してギアをバツクに入れてゆつくりと後退を開始した。そして路地から北進車両に対する見通しは角の民家の樹木が妨げとなつて良好でないため、約一〇・五メートル位後退して見通しのきく図面〈2〉地点に一時停止し、そこで少なくとも三ないし四秒間位左右の交通の安全を確認した。その際先ず左方(南進車線側)の安全を確認したところ萱場方面から直進してくる原告車のライトの光を認めた。しかし、右ライトの光は相当遠方(一〇〇メートル以上)であつたため右方を注意しながら後退を再開した。そしてさらに二・四メートル後退した図面〈3〉地点で再度左方の安全を確認したところ、約五〇メートル前後の距離にまで接近している原告車を認めたため、被告井上はそのまま後退を続ければ衝突する危険があると判断し、とつさに急ブレーキを踏んで図面〈4〉地点に完全停止した。被告井上は右〈4〉地点で停止後、南進車線にはまだ十分の余巾があり、原告車は無事被告車の後方を通過して行くものと考えていたが、意外にも停止して二ないし三秒後原告車に自車後部左角付近に衝突されたものである。

(四)  以上述べた本件事故発生の状況に照らすと、原告にも制限速度違反及び漫然進行の少なからぬ過失があつたことが明らかであり、原告の右速度違反および漫然進行の過失は極めて重大であつて、その過失割合は五割を下らない。

2  (弁済) 九八六万九五〇〇円

(一)  自賠責保険の被害者支払分

五五・三・二四 九三五万五八三三円

(二)  被告らが原告本人または病院に支払つた分 五一万三六六七円

六  抗弁に対する原告の主張

1  (過失相殺)

(一)  原告が急ブレーキの措置をとつた地点は、原告の供述四〇メートル先と、被告らの主張の四五メートル先とほぼ一致する(空走距離分は原告が高校生であつたところからみると、〇・八秒位みれば十分と考えられ、その場合の空走距離は時速七〇キロメートルで一五・五五メートル、これに二四・八メートルを加えると四〇・三五メートルとなる。)。次に、原告が被告車を発見した地点について、被告井上が自動車運転手として三、四秒も同一地点に停止して後退を始めることは経験則上あまり考えられず、被告の主張は根拠に乏しい。原告は五〇ないし六〇メートル先で、被告車が道路に出るところで一時停止したように見えたところ、急に再びバツクしてきたので、このまま進行すれば被告車と衝突すると思い、急ブレーキをかけたのであり、この状況は、急ブレーキの措置をとつた位置が衝突地点より四〇ないし四五メートル先との前記推測によく合致し、自然である。また、被告井上は実況見分の際、図面〈3〉地点で二一・二メートル先の図面〈ア〉地点に原告車を認めたと述べているが、原、被告車のかかる位置関係は、原告が五〇ないし六〇メートル先で図面〈2〉地点の被告車が急にバツクするのを見て急制動の措置をとつたという前記原告の供述の正しさを明白に証明する。この点について被告は、原告が急制動の措置をとつたのは、自己の進路上に被告車が出て来た状態の図面〈3〉の位置の時であり、これに空走制動距離を併せ考えると、四五メートル先に原告車があつたと推測され、被告井上の実況見分の時述べた距離は少な目であると断ずる。しかし、車両の運転手が危険を感じて急制動の措置をとるのは、障害物が自己の進路上に出てからというのは遅きに失するのであつて、通常は路外から自己の進路上に出る気配があれば、クラクシヨンを鳴らすとか、急制動の措置をとるのであつて、被告の前記推測は独断である(実況見分の際、前記距離が二一・二メートルと計測されているのは、被告井上が漠然と距離を述べたのでなく、実地に指示しこれを計測したものであり、証拠としては一番信用おけるものである。)。

(二)  以上のとおり、本件事故は、被告井上が、後退して国道に進出するに当り、図面〈2〉地点において原告車を発見し、同方面への見通しが悪いのに、その距離を十分に確かめず、反対方向のみ注意して急に後退し原告車を発見するのが遅れたために起きたものであり、被告車が国道に進出せんとしているので、クラクシヨンを鳴らして注意を与えたので、よもや直進中自己の進路上に進出することはないと信頼して運転してきた原告の信頼は保護されるべきである。従つて、原告の過失は多く見ても三割を超えることはない。

2  (弁済)

認める。

七  証拠〔略〕

理由

一  (事故の発生)

請求原因第1項については当事者間に争いがない。

二  (責任原因、過失相殺)

1  被告井上が、本件事故当時被告車を所有し運行の用に供していたこと、被告会社の角田営業所長であつたことは当事者間に争いがなく、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告井上は、営業所内における仕事を終えた直後角田営業所入口の門扉を施錠し、被告車を運転して本件路上に進出し、江尻方向へ向かおうとしていたところ本件事故を発生させたものであつたことが認められる。このような事情のもとにおいては、被告井上の本件事故時における被告車の運転は、民法七一五条一項にいう被告会社の「事業の執行に付き」行われたものに該当するものと解するのが相当である。

2  成立に争いのない甲第一ないし第五号証、乙第一、第二号証、原、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。すなわち

(一)  本件路上は、萱場方面から江尻方面に向かう車道総幅員約七メートル(北進車線、南進車線各二・六メートル)の平たんなアスフアルト舗装道路(国道三四九号線以下「国道」という。)であり、北進車線の外側(西側)には巾員一・六メートルの歩道が、南進車線には幅員一・二メートルの路側帯が設置されている。

本件路上に面して、国道の西側に角田営業所が、東側に国道と直角にT字型に交差する形で本木方面に通じる幅員約六・八メートルの路地(農道)がある。なお、本件路上付近の国道の交通規制は信号機はなく、最高速度四〇キロメートル毎時、追い越しのための右側部分はみだし禁止、駐車禁止である。

路地から国道に進入しようとする場合の江尻方面への見通しは、樹木等のためあまり良好でなく、江尻方面から萱場方向への国道上の見通しは良好であつたが、路地方向への見通しはやはりあまり良くはなかつた。なお、本件事故時はすでに日も暮れて暗く、交通量も多くなかつた。

(二)  ところで、被告井上は、被告車を運転して路地から国道に向けて徐行しつつ後退してきた。そして、図面〈2〉地点でいつたん停止し、左右を確認したところ右方には全く車両は認められず、左方にも車のライトが見えたものの距離が明らかでなかつたこともあつて、いまだ遠方にあり、安全であると速断して更に約一〇キロメートル毎時の速度で後退を開始した。そして図面〈3〉の地点まで来た時、約二一・二メートル左方の〈3〉地点に、進行してくる原告バイクを発見し、そのまま後退を続ければ衝突するであろうと判断したため直ちにブレーキを踏み〈4〉の地点に停止したところで原告バイクと衝突した。

一方原告は、国道上の道路中央寄りやや左側付近を江尻方面から萱場方向に向けて、約七〇ないし八〇キロメートル毎時の速度で原告バイクを走行させ、図面〈2〉地点から約五〇ないし六〇メートル江尻寄りの地点に差し掛かつた際、右〈2〉地点から国道方向に向かつて後退してくる被告車のライトを発見したが、被告車の方で停止するものと軽信し、クラクシヨンを鳴らしたもののそのままの速度で進行したため、被告車が国道に進入してくるのに気付いて急制動の措置をとつたときにはすでに間に合わず、被告車と衝突した。

3  以上の認定事実によれば、被告井上には、後退時左方道路の進行車両の安全を十分に確認しないで後退した過失があり、原告には、制限速度を著しく超えた高速度で路地から前方へ進入してくる車両の安全を十分に確認することなく進行した過失がある。従つて、本件事故は、被告井上の過失と原告の過失との競合により発生したものというべきであつて、損害賠償価額算定にあたりしんしやくすべき過失相殺割合としては原告バイク側が四割、被告車側が六割と認めるのが相当である。

4  以上の次第で、被告らは連帯して(被告井上は人損について自賠法三条、物損について民法七〇九条、被告会社は人損、物損について民法七一五条により)原告が本件事故によつて被つた後記認定の損害の内六割相当額を賠償する義務がある。

三  (損害)

1  積極損害 七八万五一一円

(一)  入院治療費 四九万二〇四一円

成立に争いのない甲第六ないし第一三号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故に伴う原告の入院治療費は少くとも四九万二〇四一円を要し、全額を被告らに負担させるのが相当である。

(二)  付添看護料 五万七五〇〇円

成立に争いのない甲第六、第八号証、法定代理人坂元キエ尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は入院期間中の二三日間起居が不自由なため母親の付添看護を受けたことが認められ、被告らに負担させる右付添看護料は、一日二五〇〇円が相当である。

(三)  入院諸雑費 一二万七八〇〇円

原告の入院期間(二一三日間)の入院諸雑費について、被告に負担させる金額は一日六〇〇円が相当である。

(四)  オートバイ修理費 一〇万三一七〇円

成立に争いのない甲第一八号証によれば、本件事故によつて破損した原告バイクの修理費は一〇万三一七〇円を要し、全額を被告らに負担させるのが相当である。

2  逸失利益 四一九三万八〇八六円

成立に争いのない甲第一五、第一六号証、前出坂元キエ、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件事故当時満一六才の農業高校生で、卒業後は家業である農業を継ぐ予定であつたが、本件事故による傷害のため、左肩、左肘、左肩関節、左手指の運動機能に著しい自動障害を残し、昭和五四年一二月三一日症状固定との診断を受け、右後遣症は自賠法施行令別表第五級六号に該当するものとの判定を査定機関によつて受けたものでおることが認められ、このような事実を前提として、原告の逸失利益は次のとおり四一九三万八〇八六円と算定するのが相当である。

(本件事故当時) 一六歳

(稼働可能年数) 四九年間(一八歳から六七歳まで)

(収益) 年間 二九二万一八〇〇円

労働省「賃金構造基本統計調査報告」昭和五三年「パートタイム労働者を除く労働者の年齢階級別きまつて支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与額その他特別給与額」表中の企業規模計旧中・新高卒平均について、きまつて支給する現金給与額一八万九三〇〇円と年間賞与その他特別給与額六五万二〇〇円を一年分合計したもの

(労働能力喪失率) 七九パーセント

(年五分の中間利息控除) ライプニツツ係数による。

二九二万一八〇〇×〇・七九×一八・一六九=四一九三万八〇八六円

3  慰謝料 九一〇万円

前出各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故による原告に対する慰謝料は次のとおり認めるのが相当である。

(一)  入通院分 二〇〇万円

(二)  後遺症 七一〇万円

4  損害てん補 九八六万九五〇〇円

当事者間に争いがない。

5  差引計算

以上の損害総額に対し、過失相殺した残りの六割相当額及び損害のてん補をした残額を算出すると、次のとおりとなる。

〈省略〉

6  弁護士費用

右の認容残元本二一二二万一六五八円について、原告は被告らに対し賠償請求しうるところ、弁論の全趣旨によれば被告が任意弁済に応じないため、原告らは原告訴訟代理人に対し本訴の提起と遂行とを委任したことが認められるが、被告に負担させるべき弁護士費用としては一七〇万円が相当である。

四  (結論)

よつて、本訴請求は、被告らに対し、連帯して二二九二万一六五八円及びこれに対する昭和五三年四月五日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田亮一)

図面〔略〕

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